[JavaScript] Phaser.js vs. ネイティブCanvasで作るブロック崩しゲーム

はじめに

ゲーム開発におけるJavaScriptは、もはや単なるウェブページのインタラクティブ要素を超えて、本格的なゲーム開発のツールとして活用されています。特に、ブラウザベースのゲーム開発において、JavaScriptは非常に強力で、多くの開発者に愛されています。とはいえ、ゲームを作る際に最初に考えるべき選択肢は、そのゲームエンジンやライブラリに関することです。

目的

本記事では、Phaser.jsを使ったブロック崩しゲームの作り方と、ネイティブCanvasを使用したブロック崩しゲームの実装を比較します。それぞれのアプローチのメリット・デメリットを探り、どちらを選ぶべきかを実際のコード例を交えながら考察します。

1. Phaser.jsとは?

  • ゲーム開発を簡単に始められるライブラリ Phaser.jsは、JavaScriptでゲーム開発を行うための人気ライブラリで、特に2Dゲームの開発に特化しています。Phaser.jsはすでに多くの機能(物理エンジン、アニメーション、音声管理など)を備えており、ゲームのロジックや画面描写に集中することができます。

  • ターゲットユーザー

    • 初心者中級者にとって、ゲーム開発のスタートを非常に簡単にしてくれるライブラリです。標準の機能をすぐに利用できるため、初心者でも比較的早く「動くゲーム」を作成できます。

Phaser.jsのメリット

  1. 開発のスピード: ゲームの基本的な構造(スプライトの表示、アニメーション、衝突判定など)を迅速に実装でき、開発を素早く始めることができる。
  2. 物理エンジンの統合: ボールがパドルやブロックに当たった際の反射や動きの処理を自動で行ってくれるので、物理エンジンを自分で実装する手間が省けます。
  3. 豊富なドキュメントとサポート: コミュニティが非常に活発で、解決方法がすぐに見つかる場合が多いです。

2. ネイティブCanvasでの実装

一方、ネイティブCanvasを使う場合は、ライブラリに頼らずすべて自分で実装する必要があります。ゲームのグラフィックスは<canvas>タグを使って描画し、アニメーションや衝突判定もJavaScriptで実装します。

ネイティブCanvasのメリット

  1. 完全な自由度: ゲームのロジックや描画、アニメーション、エフェクトなどを完全にコントロールできるため、オリジナリティのあるゲームを作りやすいです。
  2. 学習効果: ゲームの細かい部分をすべて自分で作るため、JavaScriptやゲーム開発に関する深い理解を得られます。

デメリット

  1. 開発の手間がかかる: Phaser.jsのように多くの機能が標準で用意されているわけではないので、スプライトの描画、衝突判定、アニメーションなどをすべて一から自分でコードしなければならない点は大きな負担になります。
  2. 物理エンジンを自作する必要がある: 例えばボールの反射や動きに関して、Phaser.jsであれば自動で処理してくれるのですが、Canvasではすべて手動で実装しなければなりません。

3. Phaser.js vs. ネイティブCanvas

ここでは、実際にどのような点が異なるかを具体的に比較してみましょう。

1. 開発速度と効率

Phaser.jsを使用すると、ゲームの骨組みを素早く作ることができますが、Canvasでは一からすべて作る必要があるため、時間がかかります。ゲームの挙動(例えば、ボールがブロックに当たったときに跳ね返るなど)も、Phaser.jsでは物理エンジンを使って簡単に実装できますが、Canvasではすべて手動でコーディングする必要があります。

2. 柔軟性と自由度

一方で、Canvasではコードを手書きするため、自由度は非常に高いです。特に、Phaser.jsではライブラリに沿った方法でゲームが動くのに対し、Canvasでは自分で全てカスタマイズできるため、独自のゲーム体験を作りたい場合には有利です。


4. まとめ

  • Phaser.jsは、ゲーム開発を効率的に進めるために非常に便利なツールですが、ネイティブCanvasは自由度が高く、細かい部分を自分でコントロールする必要があるため、学びが深いです。どちらを選ぶかは、プロジェクトの規模や開発速度、自由度をどれだけ求めるかによります。

1. Phaser.jsの魅力と簡単なセットアップ

  • ゲーム開発を簡単に始める:

    • Phaser.jsは、ゲーム開発に必要な多くの機能(物理エンジン、アニメーション、オブジェクト管理など)がすでに組み込まれており、手軽にゲーム開発を始めることができます。

    • 基本的なコード例:

      const config = {
        type: Phaser.AUTO,
        width: 800,
        height: 600,
        scene: {
          preload: preload,
          create: create,
          update: update
        }
      };
      
      function preload() {
        this.load.image('paddle', 'assets/paddle.png');
        this.load.image('ball', 'assets/ball.png');
      }
      
      function create() {
        this.paddle = this.physics.add.sprite(400, 500, 'paddle');
        this.ball = this.physics.add.sprite(400, 300, 'ball');
        this.ball.setVelocity(200, 200);
        this.physics.add.collider(this.ball, this.paddle);
      }
      
      function update() {
        if (this.input.activePointer.isDown) {
          this.paddle.x = this.input.x;
        }
      }
      
      const game = new Phaser.Game(config);
      

2. ネイティブCanvasで苦戦する理由

1. Phaser.jsの魅力と簡単なセットアップ

1-1. なぜPhaser.jsなのか?

ネイティブなcanvasだけでゲームを書くと、次のような処理をすべて自前で用意することになります。

  • 描画ループ(requestAnimationFrame
  • オブジェクトの位置・速度の管理
  • 衝突判定(当たり判定)
  • 画像や音声のプリロード
  • 入力(キーボード・マウス・タッチ)の処理
  • シーン遷移やステージ管理

Phaser.js は、こういった「ゲームを作るたびに毎回書くことになる骨格部分」をフレームワークとしてまとめたものです。 そのため、開発者は次のような“ゲーム固有の部分”に集中できます。

  • どんな見た目・世界観にするか
  • スコアやライフ、難易度などのゲームルール
  • エフェクトや演出の作り込み
  • ステージ構成やギミック

「ゲームエンジンを使う」=「自動化できるところは任せて、自分のやりたい部分にリソースを割く」という構図になります。


1-2. 最小構成の理解:configとシーン

先ほどのコードは、Phaser.js の最小構成に近いブロック崩しのひな型です。

const config = {
  type: Phaser.AUTO,
  width: 800,
  height: 600,
  scene: {
    preload: preload,
    create: create,
    update: update
  }
};

const game = new Phaser.Game(config);

ここで押さえておきたいポイントは次の3つです。

  1. type

    • Phaser.AUTO は、利用可能な環境に応じて

      • WebGL
      • Canvas のどちらかを自動で選択してくれます。
    • 自前でcanvasを書いていると「WebGLを使うかどうか」「fallbackどうするか」などを意識する必要がありますが、Phaser側がよしなにやってくれます。

  2. width / height

    • ゲーム画面の解像度です。
    • ネイティブcanvasなら canvas.width = 800; canvas.height = 600; と自分で書きますが、Phaser では config に書くだけです。
  3. scene

    • preload, create, update という「ライフサイクル関数」を束ねたものです。
    • シーンは「タイトル画面」「ゲーム本編」「ゲームオーバー画面」のように分けることもできますが、この例では1つのシーンだけを定義しています。

1-3. シーンのライフサイクル:preload / create / update

preload: アセットを読み込む場所

function preload() {
  this.load.image('paddle', 'assets/paddle.png');
  this.load.image('ball', 'assets/ball.png');
}
  • ゲームで使う画像やサウンドなどを最初にまとめてロードするフェーズです。

  • this.load.image(キー名, パス) のように、後で使うための“ラベル”を付けて読み込みます。

  • ネイティブcanvasでやろうとすると、

    • new Image() で画像を作る
    • onload イベントを待つ
    • 読み込み完了後にゲームを開始する といった“前準備コード”が必要になりますが、Phaserではひとまず preload に書いておけばOK、という設計になっています。

create: オブジェクトを配置・初期化する場所

function create() {
  this.paddle = this.physics.add.sprite(400, 500, 'paddle');
  this.ball = this.physics.add.sprite(400, 300, 'ball');
  this.ball.setVelocity(200, 200);
  this.physics.add.collider(this.ball, this.paddle);
}

ここは、ゲーム世界に“駒を並べる”イメージの処理です。

  • this.physics.add.sprite(x, y, 'key')

    • 指定した座標にスプライト(画像)を配置し、同時に物理エンジン管理下のオブジェクトとして扱います。
    • ネイティブcanvasでは「位置を表す変数」「速度」「当たり判定用のサイズ」などを自分で構造体的に持ちますが、Phaserはそれをまとめた Sprite として扱ってくれます。
  • this.ball.setVelocity(200, 200);

    • ボールの初期速度を設定しています。
    • 通常なら ball.vx = 200; ball.vy = 200; と自分で変数を用意し、毎フレーム x += vx などと足し込む必要がありますが、Phaserは物理エンジン側で管理します。
  • this.physics.add.collider(this.ball, this.paddle);

    • ボールとパドルがぶつかったときの跳ね返り処理を、Phaserの物理エンジンがいい感じにやってくれます。

    • ネイティブcanvasだと、

      • 当たり判定(AABBや円判定)
      • 衝突したときに速度ベクトルを反転
      • めり込みを解消する などを全部自前でやる必要があります。

update: 毎フレーム呼ばれるゲームループ

function update() {
  if (this.input.activePointer.isDown) {
    this.paddle.x = this.input.x;
  }
}
  • update は、1フレームごとに呼ばれる関数です。
  • ネイティブcanvasなら requestAnimationFrame(gameLoop) を自分で書いていましたが、Phaserがその部分を肩代わりしてくれます。

この例では、マウス(またはタッチ)入力に応じてパドルのX座標を更新しています。

  • this.input.activePointer.isDown

    • マウスボタンやタッチが押されているかどうか。
  • this.input.x

    • 現在のポインタ位置のX座標。

ここでも、「イベントリスナーを貼る」「座標を拾う」といったボイラープレートはPhaser側が提供してくれています。


1-4. ネイティブCanvasで同じことをやろうとすると

同じことをネイティブcanvasでやる場合、ざっくりこんな要素が必要になります。

  • canvascontext の取得
  • 画像のロードと管理
  • ゲームオブジェクト(パドル・ボール)のクラスまたはオブジェクト定義
  • 物理量(位置・速度・加速度など)の更新ロジック
  • 衝突判定ロジック
  • requestAnimationFrame によるメインループ
  • マウス・タッチイベントの登録と座標変換

1つ1つは難しくないですが、全部が集まるとそれなりの分量になります。 今まさにネイティブcanvasでブロック崩しを作っていると、こうした「ゲームの基礎骨格を自前で維持するコスト」を強く実感するはずです。

Phaser.js は、この「毎回ゼロから書く部分」を共通化してくれるので、

  • とりあえず動くものを早く作りたいとき
  • ゲームのロジックや世界観の方に脳のリソースを使いたいとき

には、とても相性が良い選択肢になります。

3. Phaser.jsのメリット vs 手動実装のメリット

ゲーム開発において、Phaser.jsネイティブCanvasの違いは、主に開発速度、自由度、学びの深さに関わってきます。それぞれのアプローチにおけるメリットを深掘りしていきます。


Phaser.jsのメリット

1. 即効性: 最初から多くの機能が用意されている

Phaser.jsの最大の魅力は、すぐにゲームを動かすことができる点です。ゲームの開発に必要な基本的な機能(描画、衝突判定、物理エンジン、アニメーション管理、音声管理など)が最初から用意されているため、手動で一からコードを書く手間が省けます

例えば、Phaser.jsを使うことで、ブロック崩しゲームで必要な「ボールがパドルに当たったときの反射」や「ボールとブロックの衝突処理」を非常に簡単に実装できます。これにより、ゲーム開発における「面倒な部分」をライブラリがカバーしてくれるため、最初は非常に短いコードで動くゲームを作ることができます。

コード例:

// Phaserのセットアップ
const config = {
  type: Phaser.AUTO,
  width: 800,
  height: 600,
  scene: {
    preload: preload,
    create: create,
    update: update
  }
};

// ゲームの読み込み
function preload() {
  this.load.image('paddle', 'assets/paddle.png');
  this.load.image('ball', 'assets/ball.png');
}

// ゲームの初期化
function create() {
  this.paddle = this.physics.add.sprite(400, 500, 'paddle');
  this.ball = this.physics.add.sprite(400, 300, 'ball');
  this.ball.setVelocity(200, 200);
  this.physics.add.collider(this.ball, this.paddle);  // 衝突処理
}

// ゲームの更新
function update() {
  if (this.input.activePointer.isDown) {
    this.paddle.x = this.input.x;  // マウス位置に合わせてパドルを動かす
  }
}

const game = new Phaser.Game(config);

このコードだけで、パドルとボールの動き衝突判定がすぐに動作します。自分で物理エンジンを実装する必要はなく、Phaserがその部分を自動で管理してくれます。


2. アニメーション・物理エンジン

ゲーム内でアニメーションや物理エンジンを使いたい場合、Phaser.jsはその処理を自動で行ってくれます。例えば、ボールがパドルに当たったときに跳ね返る処理や、ボールの動きがスムーズに見えるように物理エンジンを利用できます。これを手動で実装するとなると、物理法則やアニメーションの動きを手書きで作成しなければならず、大きな労力がかかります。

また、Phaser.jsはアニメーションのフレーム管理スプライトシートの切り替えなどを標準でサポートしており、簡単にアニメーションを実装できます。例えば、キャラクターが移動するたびにアニメーションが切り替わるなど、複雑な動きも簡単に作れます。


手動実装(ネイティブCanvas)のメリット

1. 自由度: ゲームの挙動を完全にコントロールできる

ネイティブCanvasを使用すると、ゲームの挙動を完全にコントロールできる自由度があります。Phaser.jsではライブラリが提供する機能に沿ってコードを書くことになりますが、Canvasではそのような制約がありません。自分で描画処理やアニメーションのフレームを管理し、物理エンジンも自作することができます。

例えば、ゲーム内で特殊な効果を加えたい場合や、標準の物理エンジンでは実現できない動きを作りたい場合、ネイティブなアプローチではその制限を気にせずに独自のロジックを実装できます。

手動でコントロールできる例:

  • 特殊なアニメーション(カスタムエフェクト)
  • 独自の衝突判定アルゴリズム
  • ゲーム内のエフェクトやビジュアルの完全なカスタマイズ

2. 学びが深い: フレームワークの中身を理解できる

Phaser.jsを使う場合、開発は効率的ですが、フレームワーク内部の処理がどのように動いているのかを学ぶ機会は少なくなります。一方で、ネイティブCanvasを使って自分でコードを書くと、ゲーム開発の基本的な部分(描画、物理法則、アニメーション管理、衝突判定など)を一から学ぶことができます。

手動実装は学習には最適で、JavaScriptの理解を深めることができ、ゲームエンジンの設計思想や動作を理解するのにも役立ちます。自分でコードを書くことによって、どのようにゲームが動作しているのか、どこでボトルネックが発生するのかなど、より深い理解を得ることができます。


まとめ

  • Phaser.jsを使用すると、ゲーム開発の効率が格段に向上し、即効性があります。複雑な処理をライブラリに任せることで、素早く動作するゲームを作ることができますが、カスタマイズには制限があります。
  • ネイティブCanvasでの開発は、自由度が高く、ゲームのロジックを完全にコントロールできますが、手動で処理を実装するため、学習と時間がかかります。

どちらを選ぶかは、開発速度を重視するのか、自由度を重視するのかによって決まります。

4. まとめ

ゲーム開発におけるPhaser.jsネイティブCanvasの選択肢には、それぞれ大きなメリットとデメリットがあります。どちらを選ぶかは、開発者の目的やプロジェクトの要件に大きく依存します。それぞれの特徴を改めて振り返り、どのような状況でどちらを選ぶべきかをまとめます。


Phaser.jsを選ぶべき場合

  • すぐに動作するゲームを作りたい: Phaser.jsは、ゲーム開発に必要な多くの機能が最初から組み込まれており、即効性があります。特に、時間が限られている場合や、素早くゲームのプロトタイプを作りたい場合に非常に便利です。物理エンジン、アニメーション、入力処理、サウンド管理など、基本的な機能をすぐに使えるため、効率よくゲームを作成できます。

  • 標準機能に頼りたい: あらかじめ用意されている機能やライブラリに頼ることで、開発時間を短縮したい場合にPhaser.jsは非常に役立ちます。特に、ゲーム開発の初心者にとっては、あれこれ細かく考えずに、まずは動くゲームを作ることが可能です。

  • チーム開発や大規模プロジェクトに向いている: すでに多くのゲームがPhaser.jsを使って開発されているため、他の開発者とのコラボレーションもスムーズです。また、フレームワークの機能を活かして、後々大規模なゲームに成長させることも可能です。


ネイティブCanvasを選ぶべき場合

  • 完全な自由度が欲しい: ゲームの挙動を完全にコントロールしたい場合、ネイティブCanvasは最適です。Phaser.jsではライブラリの制約がありますが、Canvasを使えばすべてのロジックを自分で実装することができます。独自のゲームロジックやエフェクトを作りたい場合に重宝します。

  • 学習・理解を深めたい: 自分でゲームをゼロから作成することで、ゲーム開発の基礎をしっかりと理解したい場合には、ネイティブCanvasが最適です。特に、物理エンジンやアニメーションの仕組みを学びたい場合、手動での実装を通じて理解が深まります。フレームワークに頼らず、実際に動くものを作りながら学びたい開発者にはうってつけの選択肢です。

  • 細かなカスタマイズが必要な場合: ゲームのビジュアルや動き、挙動に関して高度なカスタマイズが必要な場合、ネイティブCanvasは非常に柔軟です。例えば、独自のアニメーションや特殊効果を作りたい場合、Phaser.jsでは実現が難しい場合でも、Canvasなら自由に設計可能です。


最終的な選択

  • 時間が限られている、もしくは迅速に結果を出したい場合は、Phaser.jsが非常に適しています。特に、ゲームのプロトタイピングや、特定のルールに基づいたゲームを作りたい場合に、Phaser.jsを使うことで、素早く動作するゲームを実現できます。

  • 自由度や学習効果を重視したい、または独自のゲーム挙動を実装したい場合は、ネイティブCanvasが最適です。自分で細かい部分までコントロールしたい、または開発の過程で多くを学びたい場合に、このアプローチが活きてきます。

最終的には、どちらを選ぶかは、開発者の目的とプロジェクトの規模に応じた選択が必要です。どちらにも素晴らしい特徴があるので、状況に応じて柔軟に選ぶことが重要です。