[MSX] MSX時代のパソコン通信 ― ASCII NETとNIFTY-Serve

パソコン通信とは

パソコン通信(PC通信)は、1980年代から90年代にかけて普及したコンピュータネットワークの形態である。 モデムを使って電話回線経由でホストコンピュータに接続し、電子掲示板(BBS)、電子メール、データベース検索、ソフトウェア配布などを利用できた。

インターネットが一般に普及する以前の日本では、このパソコン通信が「オンラインコミュニティ」として重要な役割を果たした。

接続の仕組みと利用体験

当時の接続は モデム を使ったダイヤルアップ方式だった。 通信速度は初期の300bpsから始まり、1200bps、2400bps、やがて9600bpsと向上していった。 文字の1行が数秒かけて流れる様子は、今の高速インターネット世代には想像しにくいだろう。

さらに家庭の電話回線を占有するため、親に「電話代が高い!」と怒られるのは定番のエピソードだった。 夜間の割引時間を狙って、布団に入りながらモデム音を聞いた記憶を持つ人も多い。

MSXユーザーの活動

ASCII NETやPC-VANのMSX SIG(Special Interest Group)では、 自作ゲームのプログラムやBASICのテクニック、攻略情報が活発にやり取りされていた。

ユーザー同士で共同開発を行ったり、通信経由で同人誌を配布したりする事例も見られ、 今でいう「オープンソース的文化」の萌芽が存在していた。

パソコン通信の意義と終焉

1995年前後からインターネットが普及すると、各社は「インターネットゲートウェイ」を設けた。 NIFTY-Serveでは電子メールをインターネットアドレス宛に送れるようになり、 ユーザーは次第に「パソコン通信」から「インターネット」へと移行していった。

2006年、NIFTY-Serveのフォーラムは正式にサービスを終了。 だが、その文化は現在のSNS、オンラインフォーラム、電子商取引に確実に引き継がれている。

課金体系と「テレホタイム」

多くのサービスは 従量課金制 で、1分あたり10〜20円が一般的だった。 長時間つなぐと数万円の請求が来ることもあり、ユーザーは必死にテキストを保存して「オフラインで読む」工夫をしていた。

90年代に入るとNTTが「テレホーダイ」を導入し、夜11時〜朝8時までは定額でかけ放題に。 この制度がパソコン通信ユーザーの「夜型生活」を定着させたとも言われる。

ASCII NET(アスキーネット)

ASCII NET はアスキーが運営していた商用パソコン通信サービス。1984年に開始され、PC-9801やMSXなど複数機種のユーザーが参加できるフォーラムを備えていた。

主な機能は以下の通り。

  • BBS(電子掲示板)
  • SIG(Special Interest Group、フォーラム)
  • PDS(Public Domain Software、フリーソフト配布)
  • 各種データベース検索

特に「ASCII NET MSX」というエリアが設けられ、MSXユーザーが交流・ソフト公開・情報交換を行っていた。

NIFTY-Serve(ニフティサーブ)

NIFTY-Serve は、富士通とアメリカのCompuServeの提携により1987年にスタートした国内最大規模のパソコン通信サービス。 ピーク時の会員数は約60万人とされ、日本のオンラインサービスとして突出した存在だった。

提供されていた機能には以下がある。

  • 電子掲示板(フォーラム)
  • 電子メール
  • オンラインショッピング
  • PDS(ソフトウェアライブラリ)
  • ニュース配信

料金体系は「基本料金+従量課金」で、接続時間によって費用が増える仕組みだった。特に深夜帯の割引時間に利用者が集中する傾向があった。

その他のサービス

同時期には「PC-VAN(日本ビクター系)」「日経MIX」「EYE-NET」などのサービスも存在した。 いずれもBBSやメールを中心に据え、専門的なフォーラムやゲーム、ソフト配布などを通してユーザーが交流していた。

意義とその後

  • ASCII NETやNIFTY-Serveは、**日本における「オンライン文化の源流」**である。
  • 現代のSNSやオンラインストアの機能は、すでにパソコン通信時代に萌芽が見られた。
  • 1990年代後半、インターネットの普及とともに多くのパソコン通信サービスは縮小・終了したが、その文化はインターネットへと継承された。

参考文献